ソニアが階段を折りて訪れた作成室は、慌ただしい雰囲気で満たされていました。同じく閉じ込められ、ああでもないこうでもないと右往左往する指導員や商業棟のスタッフ達は絶えず、半ば怒鳴るように小難しい話をぶつけ合っています。ソニアは自分の専門分野とは遠く離れた、そして高度な事象を紐解く旨の会話が成されていることだけは何となく感じ取ることが出来ました。ですが、それ以上はとんと分からず、何が正しくて何が間違っているのか、それ以前に彼らが何を怒っているのかも分からないので、止めに入ることもできません。ソニアは胸の奥の鈴を心なしか遠慮がちに、チリンとひとつ鳴らします。喧騒はちっとも止む気配を見せません。指導員達の影で、申し訳なさそうに、ソニアはピンとはみ出た耳を頭巾の下に仕舞いました。
部屋の奥で試験管はぐらぐらと揺れ、様々な場所から掻き集められた魔法道具用のスプーライト鉱石が机に散らばってきらきらと光っています。どこかの部屋にあった壁掛け時計であったり、指導員の私物のオルゴールなどからも魔力電池が抜かれて集められており、どんどん机の上は星の塊のようになっていくようです。そして研究者というより技術者寄りの指導員達の元ではいつ停電なども起きるか分からないと、実験用に飼われていたヒカリカイの解凍、目視できなくても会話ができるようにと無線通信機やアイボの調整などが進められています。誰も彼もが本気で、時に楽しむように、この事態に向き合っているのです。この緊急事態で、ソニアは元々仕事をしていた一階で何をすれば良いか、甚だ見当がつきませんでした。最初はやや混乱しつつも何かしないといけない気がする、という焦燥感に足首を噛まれ、先輩や他の同僚の背を追って二階へ行ってみたのです。何となくそれが元来生まれ持つ羊の特性であったことを、今たくさんの人に囲まれた中で、ソニアは察しました。そしてようやく、今何ができなくて何が必要なのかを少しずつ掴めてきたところです。