願え小ネズミ

草陰に隠れて、のたうち回るような幾筋もの地響きをやり過ごした。私の小さい体で無策に飛び出せば、この地面の下を無秩序に食い荒らす魔物に飲み込まれてしまうことは明白だ。しかし、この小さい体のお陰であの巨躯や魔物のような、人のような何かに見つからずに済んでいるのも事実だ。
空の国での二日間の疲れは、まだ完全に回復しきったとは言えない。飛んで移動しようにも、数メートル以上胴を伸ばしたワームが飛び出してこないとも限らない。そして、私のいる校舎正面寄りの場所はまさに激戦区と呼ぶにふさわしい様相を呈している。炎が腐肉を焼く臭いがじわりじわりと傷口に染みるような感覚がして、巨大な暗闇に挟まれて噛み潰される原初の恐怖が身の底から沸き上がった。
鉄砲水が切り裂ける音がする、大木の折れる音がする。金属板のねじ切れる音がする。五感のすべてが足を震わせ、背骨に氷柱を這わせている。凄惨極まるこの場所に、彼はいるのだろうか。空の国で最後に見た彼の表情は遠く遠くにあったけれど、決して忘れるまいと握りしめてきたのだ。何があったのだろう。怖かった?悲しかった?つらかった?それとも、怒りだろうか。私は傷を癒せないし、流れる血を止められない。人の心の傷は体の傷よりももっとずっと複雑に絡み合っていて、魔法でも治せないものも少なくない。いや、ずっとずっと多い。だけど今は一握の希望を持たせてほしい。彼の元に私が寄り添えますように、と。
紛れた草陰の葉に支えられ、私は立ち上がった。