「うーん、色々食べてみたけどやっぱりマカロンが美味しい~!」
「センジュちゃんもすっかりこのお店のお菓子がお気に入りになったみたいですね」
追加で頼んだ大判ナッツクッキーやドライきのみ入りのスコーンをぺろりと平らげたセンジュが、満足げに舌を出してニコニコと笑っている。こういったカフェにはよく行く方だが、センジュはかさばるのでボールでお留守番が多い。存分に尻尾を振って甘い物を食べられるテラスは、この大型犬の特等席だ。
しかし、それにしても。
「思ったより量があったのでマリアさんが通りがかってくれて良かったです」
「たまたまですよ、スピカチャン♡ ワタシとしてもラッキーでしたね」
スピカ、年齢十五歳前後。身長140cm台半ば。他地方……確かカロス出身。コランダで家族と暮らしているわけではなさそうだ。性格は人見知りな割に危機感が薄い。両親はこの娘が別地方の学校に通うことになった時、気が気でなかったのではないだろうか。今だってそう。不良チームに所属する軽犯罪上等の輩相手に気を許して呑気にお喋りを楽しんでいる。
「今調べてみたら結構話題になってるんですね~このカフェ。今ヴァニル周りで検索して出てくるラテアートの写真、大体この店ですし」
「先月オープンしたばかりらしいんですけど、盛況ですよね」
『連れているポケモンのラテアートを出してくれる』という情報に、『夢中でお菓子を頬張るイエッサン』。あとは食器類と写真に映り込んだものの情報と、写真の撮影された時間帯を窓から入る太陽の角度から割り出して。まぁ、そうまでせずとも恐らくこのアカウントはスピカのものだろう。トレーナーの写った写真は載せていないのは身バレ対策だろうか。それでも店の特定くらいなら余裕だ。
「ボタンチャンもリゲルチャンもカフェ楽しんでるみたいで可愛い~♡ スピカチャンと一緒に食べるご飯、美味しいんでしょうね♪」
「ボタンは寂しがりなところがあって、ボールの中があんまり好きじゃないみたいなんですよね。リゲル、もう満足した?」
そう言って、スピカは自分の分の小さなお菓子をリゲルに手渡す。紙ナプキンでボタンの口周りをまた拭ってやっていたリゲルがハッと目を輝かせてお菓子を受け取る。ボタンは自分も……と言いたげだが、綺麗にしてもらったばかりなために食べ物をねだるか迷っているのがいじらしい。手持ちとの関係は良好そのもの。スピカの素直な性格が信頼を築いているのだろう。
「うふ、ワタシもこのお店気になってたんです。スピカチャンったら先に見つけてるなんて」
「SNSで話題になってて。ずっと来たかったんです」
ヴァニルのカフェは場所によっては学生の溜まり場になる。その情報網に穴があってはいけない。またこの周辺の情報収集のやり方を考えなければ。カフェ系であれば大抵オープニングスタッフの募集がバイト募集サイトやポケジョブの派遣先に登録されており、数ヶ月前にはどこでどんなジャンルの店が開くのかが把握できる。アカデミー周辺の情勢の把握は、ポケモンレースで地理を把握するのに似ている。どこに誰がいて、誰が何を知っているのか。掴んでおくのがワタシの仕事なのだから。
「ワタシも新規開拓頑張らないとですね♡ さて、お名残惜しいですけどそろそろ行かないと」
「あ、じゃあ私も一緒に……って、あっ、ボタン!」
お店の中で目を引いた通りすがりのポケモンに、ボタンが好奇心でついて行ってしまったようだ。パタパタと忙しなくリゲルと一緒にボタンを追いかけるスピカの背を見やる。「迂闊で可愛い」トレーナーだ。
スピカがDDのメンバーと接触しているのは噂好きの生徒から最近聞いた。警戒心の薄さと本人の嘘の吐けなさは人間関係における一つの価値だ。ワタシが持ち得ないなら、ワタシの「迂闊で可愛いお友達」が持っていればいい。今後も付き合いを続けていれば「誰か」の情報を落としてくれるかもしれない。
ボタンを抱いて、ついて行った先のトレーナーに頭を下げているスピカを尻目に、カードで席の会計を全て済ます。
「また遊びましょうねえ」