「礼は、俺に出来ることなら何でもするわ。せやから、もし何か知ってたら……頼んます」
「あらぁ……。えらい切羽詰まったはる感じやん」
焦燥感に曇るレイの表情を、マリアはウインディのセンジュと共に興味深げに覗き込む。センジュは単純にレイのことを心配しているだけであろうが、マリアの頭はレイを見ながらくるりくるりと状況整理に損得勘定にと忙しく回り始める。自分がここにいるのはこのフィンブル旅行のアクティビティとしてトレッキングを楽しんでいるからというのもあるが、この雪山の遊べる場所のどこを探しても見当たらないメンバーがいるからだ。誰とどこでどう遊んでいようと、それは個々人の自由ではあることは分かっているが。アシェンプテルの中でも二人も揃って私を仲間外れにしてくれるなど水臭いではないか。――心配なのだ。
「なんや、あんさんもワケアリかいな」
「ちょっとだけやけど。ええで、お姉さんがレイチャンのことお手伝いしたげるわ」
マリアはセンジュから降りて、レイの携帯端末と自分の端末のデータをいくつか同期する。雪山の天気、日没時間、生息する野生ポケモンなど。アクセスできる周辺情報をかき集めたものだ。情報収集はもちろん、もし何か騒ぎが観測されれば、二人の端末に通知されるようになっている。
「……おおきに」
「『スミチャン』やったっけ? ゴチムの子やんなぁ? スミを探さな~って……あの子探してはるってことで状況は間違いない?」
「! あぁ、おうてる」
レイからスミのいなくなったおおよその時間、場所を共有してもらったマリアは端末のマップアプリに手際良く数値を打ち込んでいく。入力しているのはゴチムの平均的なすばやさと、周辺の積雪情報。数秒もしないうちにレイとマリアの見ているマップにエリアを表すような円形のオーバーレイが表示された。
「これが数値で見られる限りのスミチャンの移動可能範囲。この積雪量とか慣れへん場所であのオチビチャンが自力で移動できる範囲なんてたかが知れてるねんな」
「今俺らはこの円のフチにおるけどスミはおらんかった……! ……やっぱり危ない目に……!!」
「待ち待ち。こないな雪山で熱なっても疲れたとき倍寒なるだけやさかい。周辺の山小屋とか野生ポケモン管理室の情報にアクセスしてみる。雪山慣れしてへんあんな小さい子やったら誰かしらが保護してる可能性も高いし~」
雪山内に点在する山小屋での迷子ポケモン保護情報にめぼしいものは見当たらなかったが、周辺をカチコール達の群れが移動していることなどが環境情報に引っかかった。ポケモン同士が接触して人間の思いもよらないルートで移動していたり、彼らなりの方法で保護されていることは珍しいことではない。不審者情報や治安に関わる情報がヒットしないのであれば、そちらを当たるほうが建設的だとマリアは判断した。
「とりあえずはこの地図上の円の中を重点的に探してみよか。ウチらだけやったらちょい手ぇ足りひんから……うーん、この子に頼るん、ちょぉイヤなんやけど……しゃーないかぁ。キクノジョウ!」
呼ばれて出てきたのはカイリューのキクノジョウ。自身を呼びつけたマリアに対して上機嫌そうにじゃれついて、その巨体で存分にもみくちゃにしている。
「熱烈やな」
「あ~~今ウチをもみくちゃにしとる場合ちゃうて! ポケ探し! お願い!」
きょとんとするキクノジョウに、レイの端末からスミの写真を見せながら状況を説明する。詳細を理解しているのかしていないのかはあまり読み取れないが、この子を空から探してほしいということはちゃんと伝わった……と、マリアは信じることにした。
「タイプ的にこおりには分が悪いけど……まぁ実働部隊としてはウチが出せる最善手やな」
「そうか……おおきに」
名残惜しそうにしつつも飛び立っていったキクノジョウを二人で見送り、辺りに静寂が戻る。次にできることは自分達次第だ。とは言っても大人しくキクノジョウの報告を待てるほどレイに余裕は見られず、マリアも今は情報を待つターンではないという判断を静かに下していた。途切れたスミの匂いを再度探しながら、この子の行けるエリアを洗いざらい見回る。そして、できるなら――多少暗い気が紛れたほうが士気が上がるだろう。
「ほなウチらも行こか。そこのゾロアークチャン、ウチのセンジュに変身とかできはる?」
ゾロアークのフデマキは一度首を傾げたあとにセンジュをじっと見つめ、どろんとその場でウインディに変身した。変身の腕は立派なもので、フデマキの姿は堂々たるウインディにしか見えない。それを見てマリアは満足そうにセンジュの背に飛び乗った。
「ちまちま探してたら日ぃ暮れてまうやろ。レイチャン、スポーツできはる? ウインディで早駆けしてスミチャン探しとかどない?」
「ポケモンライド……俺が……!?」
「アハッ、ゾロアークチャンがお疲れやったらセンジュの後ろに乗せたげるけど? 何にせ、アンタの大事なスミチャン探しのためにもモタモタ雪山歩くんは焦れったくてかなんっちゅうこと!」
ばう!と張り切った声を上げるセンジュが期待に満ちた眼差しでレイやフデマキ達を見つめて尻尾を千切れんばかりにブンブンと振っている。駆け比べの気配に興奮してきたようで、雪のちらつく山の中でセンジュの体温が炉に焚べた薪のようにじわじわと高まっていることを感じて、マリアは上機嫌そうに笑む。
「レイチャン、『何でもする』って言うてはったけど」
「……それが何や。覚悟はできとる。スミのためや」
「ほな、帰ったらウチと茶飲み友達になってぇや♡」
「………………はぁ!?」
「別にレイチャンは特別なことな~んもせんでええねんで? ウチとお茶して、お話するだけ♡」
「一回分の何か……貸し借りとかと違うんかいな!?」
「それはレイチャンが決めたらええねんで? ウチとお茶するんが楽しくなかったらぁ……悲しいけど次からお断りしてくれたら……ぐすん」
「でも一回は行かなあかんねんな……」
「そゆこと♡ お姉さんに何でも話してや? 世間話でもお悩み相談でも……恋バナでもええで?」
「絶対嫌や」
「アハッ、いけず♡」